橙のシロ  〜エロゲーレビュー・ブログ〜

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<<   作成日時 : 2007/01/03 20:24   >>

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白鳥は死の直前に美しい声で鳴くという。
――だが実際は、最後まで醜い声のまま。


メーカーはLe.Chocolat


○どんな物語??

クリスマス・イブの日に、大型地震が起こります。
司たちの街は陸の孤島と化し、被災者同士でコミューンをつくって生活しなくてはなります。
救助はいつまでたっても来ません。
次第に司たちのコミューンと他のコミューンとで争いが起きるようになり、コミューンは武装化していくようになります。
その中で、人々は人を殺めることを日常として受け入れるようになり、穏健派であったコミューンのリーダー田能村は、すっかり性格が変わってしまったクワガタによってその座を簒奪され、コミューンから出て行くこととなります。その結果、恐怖政治のような形態にコミューンは変化することとなります。

えーと、つまりは「蠅の王」です。「無限のリヴァイアス」です。
ある種の隔離された状況下における人間群像がテーマとなっています。

てっきり僕は、地震という自然災害からのサバイバル物語だと思っていたのですが、
まさか人間同士の摩擦によるサバイバルものだとは思いもしませんでした。
地震は、街を外界から隔離するための要素でしかありませんでした。
これは嬉しい誤算でしたね。


○地震の規模

僕自身、大きな地震の被害をモロにくらったことがありますので、その経験をいかして(笑)と言いますか、まあ、その角度から本作についてちょっと考察してみたいです。

なんと言っても一番気になるのが、本作における地震の規模です。
本作の描写からすると、とてつもなく大規模な地震だというのは推理できます。
何とラジオを受信できないんですよ!
僕が経験した地震も壮絶なものでしたが、ラジオは普通に受信できました。
電気、ガス、水道がストップするのとはワケが違います、ラジオなんですよ!
いくらなんでもこれはあり得ないのでは……と思いましたが、日本史上かつてない規模の地震が起きたと仮定すれば、あるいはあり得るのかもしれません。

そして陸の孤島となったとありますが、作中の描写やCGからすると、この街がそれなりに都会であることが窺えます。
いくら回りには山があり、街の中心部は水没しているからといって、道路が全てダメになったとは考えにくいです。というか、作中で全く車が登場しないのが気になります。
確かに大雪というファクターがあるのですが、それだけでは説得力に欠けます。
街の車全てが潰れた、なんてのは論外です。

被災者の多くは、普通、遠くの地へ逃れようとします。
そのために、車を使用するのは当然です。
僕が経験した地震ではそうでした。道路は大渋滞でした。よくこんな道路を走れるなあ、と感心したものです。

そうですねえ、実際のところ、多くの人は避難所には行かないんですよ。
僕も行きませんでした。
しばらくは我が家ですごして、その後疎開しました。
まーこれは幸いにも家が潰れなかったからなんですがね。
家が潰れてしまった人はどうしてたんだろ……それでも避難所へ行かなかった方は多かったと思いますよ。それぐらい嫌なところなんですよ、避難所って。
だから、みんながみんな避難所で共同生活を送っている描写は、どうも首をひねざるを得ません。あんなところ、住めたものじゃないんですから。

というか、線路ですよ。線路はどうしたんです。
被災直後、僕は隣の街まで線路の上を歩いて行ったものです。
そうなんです、線路って便利なんです。車やバイクがやってきませんし、倒壊物も少ないですし、安全ですし……何より道に迷いません。
いや、僕が方向音痴だとかそういうことを言ってるわけじゃないです。
ほんとにね、道に迷うんですよ。あまりにも以前とは景色が違うから。
それに家が崩れていて、迂回しなくちゃいけなかったりしますから。

だから、隣町へ行きたければ、線路を歩けばいいんです。
道路と同じで、線路が全て壊れたとか水没したとかあり得ないですから。
駅は水没しているようですが、それはあくまで駅ですからね。
線路全てが水没したわけではありません。


うーん、言いたいことが山ほど出てきたので、この辺りでやめておきましょう。
なんしか、千年に一度並の大地震が起きたと仮定しなくてはならない規模の地震だったわけです。


○美しい終わり方

地震のことばかり言ってて、作品についてまるっきり語っていないことに気づきました。
これではいけません。
これでは、孫に戦争体験を自慢げに語って聞かせるおじいちゃんと同格です。
これではいけません。

では、本作の終わり方について少し書きます。

本作は、一周目はバッドエンド固定、二周目からトゥルー(?)エンドへ行けます。
一周目エンドは、それはもう見事なまでに救いのないエンドでした。
とても綺麗でしたけどね。
震えました。こういう終わり方は大好きです。
個人的には、これがトゥルーエンドだと考えています。

それで二周目エンドには、希望というものが加えられています。
絶望だけではない、と言った方が正確でしょうね。まあ、そんな感じです。
ですがね、根本的なところは何も解決していないんですよ。不思議なぐらい。
しかしそれがいい味を出しています。

一周目も二周目も司とヒロイン・柚香が理解し合えないという点では共通しています。
この二人が理解し合えたり、分かり合えたりすることは難しそうに思えます。
……ですが僕は、そんなことはないと思います。

二周目エンドでは、司が向日葵の種をみんなに配って歩きます。
雪が解けて、地面が出てきたら植えようというのです。
ここに強い意志はなくとも、少なくともなにか明日に望みを置いているというのは感じられます。
すると柚香は言うわけですよ、雪が解けると、そこから死んで氷づけになった人たちが露わになると。そして冷凍された人たちは、雪消と共に腐り始めると。
冷たい雪の中の人たち=柚香と考えていいでしょう。
彼女は今でこそ人としての姿であるが、雪が解け、何もかもが元通りになっていくと腐ってしまうというわけなのです。

これだけから考えると、司と柚香は交わることのない平行線です。
しかしですね、どうも柚香は、そういうふうに言っているだけという節があるんです。
偽悪者になっているような感じです。
雪崩が起こったとき、柚香はイヌなんか好きじゃないのに、必死でイヌたちを助けようとします。
確かに柚香が自分の命を軽んじているからそういった行動ができたと考えることもできますが、
それだけでは説明不足ですよね。
超訳かもしれませんが、僕はそこに自分の本心に気づかない柚香を感じます。
結局、その雪崩に巻き込まれて、柚香はケガしていたイヌもろとも雪の中に閉じ込められます。
柚香はもうろうとした意識の中で、幼き日の自分、あるいは自分の本心と対話します。
幼き日の自分は、直線的で、今の無気力な柚香とは真逆の性格です。
結局柚香は、自分の本心にいわば拒絶され、目を覚まします。
そこは見慣れた避難所です。柚香は、奇跡的にも助かったのです。
けれども、イヌは死んでいました。
それを聞くと、柚香はなぜか涙を流してしまいます。
ここです。
ここなんです。

死んだイヌは、どことなく今の柚香と似ていました。
そのイヌは死に、柚香は生き残りました。
拒絶をされようが、理解し合えないだろうが、柚香の中にはあの幼き日の自分がいるから生き残ったとまでは言いませんが、なぜか涙を流す柚香は全くの絶望の中にいるわけではないと考えられないでしょうか。

果たして雪が解け、地面が露わになる頃、一面に現れるのは何でしょうか。
死体の山でしょうか、それとも太陽に向かって咲き続ける向日葵でしょうか。
その答えは、二周目エンドにあります。

僕は、二周目エンドは何も解決していないと言いました。
確かにその通りです。何も解決していません。
しかし、何かが解決しそうな、何かが変わりそうな、そういった希望を感じることはできます。
みなさんはどうお考えになるでしょうか?


○残念なところ

何より残念だと思うのが、クワガタの突然な豹変でしょう。
確かに冒頭から何か危うい印象を与えてくるキャラではありますが、彼がある種の狂気に取り憑かれるに至る過程が、どう考えても描写不足です。
それに、よくよく考えてみると、狂気とレッテルを貼ってしまうのはよろしくないですね。
単なる狂気ではない、むしろ強い意志です。
その割には描写があまりされていないため、狂気にしか見えないんですよね。
これはやはり残念です。

そして次に残念なのは、あろえです。
彼女は自閉症を患っていて、作中ではイノセントを表す重要なファクターとして機能しています。
もっと言えば、この作品全体を表すキャラなのです。
なのですが、全体をぼんやりと表しすぎて、あろえで一体何をしたいのかがぼやけてしまっています。
一周目エンドの学校での殺戮にこそ、あろえは登場すべきでした。
あの狂気と黒い渦の中でこそ、あろえというキャラはいきるのです。
扱いづらいのか、あろえを蚊帳の外に追いやって物語を進めすぎですね。
残念でした。


○まとめ

いいところ、悪いところはどんな作品でも当然存在します。
評価を下すとき、いいところと悪いところを相対化して評価する方もいらっしゃるでしょうが、
僕は絶対評価でその作品を評価します。

つまり、全体的に整った巧い作品よりも、
粗があっても矛盾があっても、何か心を揺すぶられるような作品が好きなのです。
正三角形よりも二等辺三角形を好むのです。
平均的に優れた作品って、僕が思うに、何も残してくれないんです。
一ヶ月もすれば、どんな作品だったが忘れていってしまいます。
ですが、どこか突き抜けたものがある作品は、いい意味にしろ悪い意味にしろ忘れられないものです。

さてこの「SWAN SONG」は、僕にとって二等辺三角形でした。
こんなにも記憶に残る作品とは、なかなか出会えないと思います。
本当にプレイしてよかったです。

まー、この作品のダメなところはいっぱいあるんですけど、
そんなことを気にしないぐらい、よかったところがあったということで。



評価 90点




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